当事務所では、特に不動産や建築・リフォーム関係の事業者さまへ向けた法的支援に力を入れております。
代表弁護士は15年以上前に宅地建物取引士の試験に合格しており、不動産仲介会社(オフィス仲介、レジデンス仲介、売買仲介)、不動産オーナー会社での勤務経験があります。会社員時代には、多数の不動産売買業や管理業に携わり、現場で営業マンとして活動しておりました。不動産を扱う会社の内情や環境、業務内容、営業担当や顧客の心理面等を熟知しています。
弁護士となった現在も財閥系不動産会社のコンサルタント業務を行うなど、不動産と強いつながりを維持しています。
2020年4月1日、改正民法が施行されてこれまでとはビジネスのルールが変わりました。
従来の契約書のひな形を変更すべき企業も多いはずです。特に売買や賃貸借、時効など「債権」に関して大幅な変更が行われているので注意が必要です。
今回は不動産や建築など各業種の企業が押さえておくべき改正民法の知識を、弁護士が解説します。
まずは不動産売買における重要な変更点をご説明します。
売買契約では従来の「瑕疵担保責任」が廃止されて「契約不適合責任」が導入されます。
瑕疵担保責任は、契約の目的物に「隠れた傷(欠陥)」がある場合に売主に発生する責任です。従来の瑕疵担保責任では「瑕疵(欠陥)」は隠れている必要があったので、売主に過失がないことが要件とされていました。また損害賠償の範囲は「信頼利益」に限定されていました。契約不適合責任になったことで、こういった取扱いが大きく変わります。
不動産売買における「瑕疵担保責任」を前提にした契約書は機能しなくなる可能性が高いので、改正内容を正しく押さえておきましょう。
契約不適合責任とは、契約の対象物が契約目的に合っていない場合に売主に発生する責任です。瑕疵担保責任とは違い「欠陥が隠れている」ことは要件にならず、売主に故意や過失があっても契約不適合責任が発生します。
また従来は「売主に故意過失があれば債務不履行責任」「故意過失がなければ瑕疵担保責任」という振り分けがありましたが、契約不適合責任は債務不履行責任も含むので、今後はこういった区別がなくなり売主の責任が一元化されます。
以下では具体的な契約不適合責任の内容や瑕疵担保責任からの変更点をご紹介します。
契約不適合責任では、瑕疵担保責任よりも「責任追及方法」が増えます。従来の瑕疵担保責任においては基本的に「損害賠償請求」または「解除(欠陥によって契約の目的を達成できない場合)」が可能でしたが、契約不適合責任では対象物が目的に適合していない場合、買主は売主に対して以下の請求が可能です。
目的物の修理や代替物の納付、不足分の納付を請求できます。
欠陥や不足分に応じて代金を減額するよう請求できます。
欠陥によって発生した損害については賠償請求が可能となります。
目的物に欠陥があれば解除も可能です。
責任追及の順序に注意
取引対象となった不動産に欠陥があれば買主は売主へ契約不適合責任を追及できますが、民法では「順序」が決められているので注意が必要です。
原則として、まずは相当期間を定めて修補などの「追完請求」をしなければなりません。追完が行われないときにはじめて「代金減額請求」が可能となります。
もしも買主側が「欠陥が見つかったときには当初から代金減額請求をしたい」のであれば、「契約目的に不適合がある場合、追完請求せずに代金減額請求ができる」という特約をつけておく必要があります。
追完の方法に注意
契約不適合責任において買主が「追完請求」を選択した場合、原則的に追完の方法は「売主が選択」できます。修理するか代替物を納付するか不足物を追納するか、都合に応じて売主が決定できるのです。
もしも買主側に「必ず修理対応してほしい」などの要望があるなら、特約で「追完請求が行われた際には売主は修理によって対応する」などと定めておく必要があります。
従来の瑕疵担保責任では、「売主の無過失」が必要とされました。故意過失があれば契約責任(債務不履行責任)が発生するとして振り分けられていたためです。
ところが改正民法の「契約不適合責任」では債務不履行責任と区別しないので、売主に故意過失があっても契約不適合責任を追及できます。
ただし改正民法のもとでは売主が無過失な場合「損害賠償請求」ができないため、目的物の欠陥によって損害賠償請求できる場面は従来より小さくなる可能性があります。その場合には「追完請求」や「代金減額請求」などによって対処する必要があるでしょう。
契約不適合責任では、損害賠償請求できる場面が小さくなる分賠償の範囲が広がります。
従来の民法では「信頼利益」の範囲しか賠償責任が発生しませんでしたが、改正民法の契約不適合責任では「履行利益」まで賠償請求できるようになります。
信頼利益の損害とは「契約が有効であることを信じたことにより発生した損害」です。たとえば「契約が有効であることを前提に鍵を替えた」場合の鍵交換費用などが該当します。
履行利益の損害とは「契約通り履行されていたら得られたはずの利益を得られなくなった損害」です。たとえば「不動産に欠陥がなければ第三者への売却によって得られていたはずの転売利益」などが該当します。
今後、不動産売買で損害賠償請求が行われると売主に重い責任が発生する可能性が高くなり、注意が必要です。契約締結の際には損害賠償の範囲や計算方法等、可能な限り明確にして予測可能性を担保しておくと良いでしょう。
従来の瑕疵担保責任にも除斥期間や時効がありましたが、契約不適合責任にも期間制限がもうけられています。
まずは買主が対象物の欠陥を知ってから1年以内に売主に対してその旨を通知しなければなりません。通知しなければ追完請求や代金減額請求等の各種の契約不適合責任の追及ができなくなります。この期間制限については「除斥期間」と考えられており時効の更新などによる延長はできません。
また通知をしたとしても「買主が権利行使可能であることを知ったときから5年以内」に実際の請求を行って権利を実現しなければなりません。こちらの期間制限は「時効」と考えられているので、途中で訴訟などをすれば更新可能です。
また買主が権利行使可能であることを知らなくても義務の履行期から10年が経過したときには時効が成立します。
次に不動産賃貸借契約における注意点を確認していきましょう。
不動産賃貸借契約では「敷金」や「原状回復」に関するトラブルが多数発生します。これまでにも多くの裁判例が蓄積されてきましたが、改正民法では敷金や原状回復に関するルールが明確化されます。
敷金については、賃貸人は賃借人から預かった敷金から未払い家賃などの負債を差し引いた金額を返還しなければならない義務が明確に規定されました。ただし「敷引き特約」が一律に無効となるわけではなく、賃借人に一方的に不利益となるものでなければ有効になる余地があります。
また賃借人が賃貸人の許可を得て合法的に賃借人が変更された場合にも、賃貸人は賃借人へ敷金を返還しなければなりません。たとえば大家の承諾のもとに借主を家族に変更する場合、大家はいったん以前の借主に敷金を返還し、新たな借主(家族)からあらためて敷金を受け取る必要があります。
改正民法では、従来明記されていなかった原状回復の範囲についても明らかにされています。すなわち「時間の経過による自然損耗」については原状回復の対象外となります。これにより、賃借人が負担すべき部分は賃借人の故意や過失によって物件を傷つけた場合などに限られます。
契約によって賃借人に自然損耗の一部を負担させることは可能ですが、賃借人の負担が過大な場合には消費者契約法違反として無効になる可能性があります。
不動産賃貸借契約においてはほとんど必ず「連帯保証人」をつけるものです。改正民法では「連帯保証人」について大きく取扱いが変更されているので、押さえておきましょう。
2020年4月1日以降、個人の連帯保証人をつけるときには必ず「極度額」の設定が必要です。極度額とは「限度額」のことです。
賃貸借契約では未払い家賃や原状回復義務の範囲が明らかにならず、連帯保証人にどれだけの負担が発生するか予測しにくくなっています。予想外に大きな負債が発生して個人の連帯保証人に過大な負担がかからないよう、あらかじめ限度額を設定するよう要求されるのです。
極度額の金額は自由に定められますが、あまりに過大な額を設定すると契約の有効性に問題が生じる可能性があります。また連帯保証人が警戒して契約書にサインしない可能性も高くなってしまうでしょう。極度額の目安としては「家賃の1~2年分」程度とするのが良いでしょう。
なお極度額を設定しなければならないのは「連帯保証人が個人の場合」のみです。保証会社などの法人に連帯保証させる場合には、従来通り極度額なしで契約可能です。
土地や建物を「事業用」として賃貸するときには、居住用とは異なる注意が必要です。
事業用の賃貸借契約で連帯保証人をつける場合には「公正証書」による連帯保証人の意思確認が必要です。また公正証書の日付は「賃貸借契約前1か月以内」でなければなりません。
たとえば法人や個人事業主などへ事業を行う場所として土地や建物を貸すときには、公正証書による事前の意思確認が必須となります。
事業用の賃貸借契約で連帯保証人をつける際には、賃借人は連帯保証人に「財務状況」を正しく伝えなければなりません。具体的には以下の情報提供が必要です。
もしも情報提供が適切に行われなかった場合、連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことが可能です。
今後、事業用として物件を賃貸し連帯保証人をつける際には、きちんと借主から連帯保証人に情報提供した事実を確認すべきです。連帯保証人へ財務状況についての情報提供書面を交付してサインを求め、その書面を取得していれば、後日「聞いていなかった」として契約を取り消されるリスクを低減できるでしょう。
改正民法では、連帯保証人が賃貸人に対し「家賃の支払い状況」について問合せる権利が認められます。連帯保証人から「きちんと家賃が支払われていますか?」などと聞かれたら、賃借人の許諾があるかどうかにかかわらず回答しなければなりません。
「本人の同意がないので返答できない」などと答えると法律違反になる可能性があるので注意が必要です。
改正民法が施行されると、不動産賃貸借契約において「親族の連帯保証人」をつけにくくなります。極度額を設定しなければなりませんが、数字が明らかになると連帯保証人が尻込みしてしまう可能性が高まりますし、事業用賃貸借契約では賃借人が親族へ財務状況の情報提供をしたくないと考えるケースも多いと考えられるからです。
今後は家賃保証会社を積極的に活用していくと良いでしょう。
民法改正により、不動産の建築請負契約にも影響が及びます。
従来の民法では、請負契約における報酬支払時期について「仕事が完成して目的物が引き渡されたとき」とされていました。
ただし建築請負契約では工事に非常に長い時間がかかり多額の費用が必要となることなどから、当事者間の特約により「分割払い」とされるのが通常です。
改正民法では「請負人が割合的に報酬請求できる権利」が一部明確化されます。以下のような場合、請負人は注文者へ「注文者の受ける利益の割合に応じて」報酬を請求できます。
注文者の責めに帰することができない事情によって仕事の完成が不可能となったとき
請負契約が仕事の完成前に解除されたとき
ただ建築実務のように「着手時に2割、棟上げ時に3割、完成時に残額」などの分割払いの方法が法定されるわけではありません。契約書においては、従来通り支払い方法についての特約を維持する必要があるでしょう。
請負契約でも、瑕疵担保責任から契約不適合責任へと変更されます。
請負人が「契約目的に適合しないもの」を注文者へ引き渡した場合、注文者は請負人へ以下の責任追及が可能です。
請求の順番や請負人の過失の要否などについては、売買契約の契約不適合責任と同じになっています。つまり「履行の追完請求が優先され、実現しない場合に代金減額請求が可能」「損害賠償請求するには請負人の故意過失が必要」となります。
もしも異なる取扱いを希望するなら、契約書において特約を定めておく必要があります。
家賃地代や物件の売買代金などが不払いとなったら「消滅時効」が成立する前に回収しなければなりません。改正民法では「消滅時効」の期間について大きく変更されているので押さえておきましょう。
従来の民法では、「原則的な債権の時効は10年」とされていました。ただし「定期的に払われる定期債権については5年」「商事債権については5年」とする短期消滅時効が認められていました。
よって従来では「家賃地代については5年(定期債権)」「法人や個人事業者の取引では5年(商事債権)」「個人との取引の場合には10年」の消滅時効が適用されていたことになります。
しかし改正民法では、こうした個別の取扱いの区別がなくなり、以下のように一元化されます。
家賃地代であっても法人や事業者の取引でも個人相手の取引でも、すべて「基本的に5年」の時効が適用されるので、把握しておきましょう。
なお時効は「相手に債務を認めさせる(債務承認)」もしくは「訴訟」「仮差押」などによって更新や完成猶予が可能です。回収できていない債権がある場合、お早めに弁護士までご相談下さい。
今後、不動産や建築にかかわる企業には以下の対応が求められます。
多くの業種において、契約書の書き換えが必要です。改正民法に対応していない場合、法律違反や一部無効になってしまうリスクもあります。契約書の見直しを行っていない場合、早期にリーガルチェックを受けて対応しましょう。
なお2020年4月1日が来たからといって、従来の契約が無効になるわけではありません。
「経過規定」がもうけられており、基本的に2020年3月31日までに締結された契約については従来の法律の内容に即している限り有効となります。
たとえば賃貸借契約において連帯保証人の極度額を定めていなくても、契約時期が2020年3月31日までに締結したものであれば有効です。
ただし「契約更新時」や「新規契約時」には必ず新法に対応する必要があるので、早めの対応が肝心です。
不動産販売や開発、リフォームや新築工事などの営業活動を行う際にも、新法の規制内容に配慮が必要です。
たとえば顧客に不動産賃貸借契約の説明をするときには「親族の連帯保証人には極度額の設定が必要なこと」「事業用賃貸借の場合には連帯保証人をつけるのに公正証書が必要となること」「財務状況の情報提供が必要になること」などを告げねばなりません。
不動産賃貸や取引の際には「重要事項説明」が必要です。近年、不動産賃貸借契約においては「IT重要事項説明」制度が解禁されたので、こちらを利用する企業もあるでしょう。
ただしIT重要事項説明を行う際には、事前に必ず顧客に重要事項説明書を送付しておかねばならないこと、賃借人による署名押印が必要となることなど、一定のルールがあります。
また不動産売買にはIT重要事項説明が適用されません。営業の際にはこうした注意点も押さえておく必要があります。
不動産売買や賃貸、建築請負の契約をめぐる法律は、近年めまぐるしく変化しています。
契約書のひな形見直し、新法への対応に不安を感じる企業も多いのではないでしょうか?
そのようなとき、顧問弁護士がいればいつでも相談できて適切に改正法に対応できます。
また、安全にビジネスを進められますし、自社で調査検討や対応を進める手間も省けます。
当事務所では神戸市東灘区を中心に企業法務に積極的に取り組んでいますので、よければ是非ご相談下さい。